微細藻類の産業利用における背景 微細藻類の利用自体はNostoc,Arthrospira,Aphanizomenonなどの自然発生したシアノバクテリアを収穫し、数千年にわたって食用に用いられてきたと報告されていますが、人類が微細藻類の商業生産を実際に始めたのは1960年代のニホンクロレラによる台湾におけるChlorellaの培養からとされていて、その後1970年代にはスピルリナの培養施設がメキシコに完成し生産が行われ始めています。1980年代にはアジアだけで46カ所もの微細藻類培養施設が稼働し、主にクロレラが生産され健康食品として広く利用され始め、3番目の商用微細藻類としてオーストラリアではβ-カロテンを含むDunaliella salinaの培養も行われるようになりました。オイルショック後の1970年代以降,日本においては,数ある微細藻類の中でも,細胞内に特殊な代謝機構を有し,動物性タンパク質や多種のビタミンを生産するユーグレナに対して、新しい食資源としての注目が集まり,2000年代から大量培養が実現され生産が開始され現在に至ります ミドリムシの産業利用可能性 ユーグレナ(Euglena)は、和名はミドリムシという名前で親しまれる単細胞真核藻類であり,小中学校の理科の授業の際にはミジンコなどと共に顕微鏡で観察される身近な生物です。ユーグレナは、植物の特徴的な性質である光合成を行いながら,その一方で細胞形態を柔軟に変化させる一方、鞭毛を使って自由に動き回ることから動物的側面も併せ持っています。ユーグレナ属及び近縁の属種は120余りとされ、その多くは水田,沼及び湖といった流れの少ない淡水域もしくは汽水域に生息しています。ユーグレナの細胞の大きさは様々ですが、大部分の種は数十μm程度の大きさです。ユーグレナの細胞は,ペリクルと呼ばれるタンパク質を主成分とする膜複合体で覆われる代わりに、クロレラ等の微細藻類が持つような細胞壁は持たないことが知られています。 ユーグレナの仲間は,他の微細藻類からは分子系統学的には遠縁の生物であり、元々光合成能を持たない原虫がクロレラ様の真核藻類を細胞内に取り込み、それ自体を葉緑体として利用する形態の二次共生藻であるとされています。数多く存在するユーグレナ属の種の中でも,特にEuglena gracilis(以下,E. gracilis)は、1950年代から光合成の研究等に用いられてきたため培養方法などの知見が豊富に蓄積されてきました。また溶存二酸化炭素濃度が高く、低pH(~pH3)となった環境条件に適応可能な種であることから、他生物の混入を防ぎつつ培養することが可能であり増殖も速い特徴があります。さらに、他の多くのユーグレナ種と同様に細胞内にβ-1,3-グルカンを合成しパラミロンと呼ばれる顆粒として蓄えることや、低酸素条件下でワックスエステルを合成するなど特徴的な代謝経路を有しており、産業上それらが活用できる可能性が高いと考えられています。 研究テーマ ケミカルスクリーニング 理研の保有する多様な化合物ライブラリを利用し、新規の培地添加剤を探索しています。世界の研究機関保有のライブラリとも合わせて合計数万種類以上の化合物を対象に、網羅的に培地に添加した際のそれぞれの化合物の効果を、ユーグレナの増殖速度や油脂含有率向上をはじめとした指標ごとに評価し、目的に応じた培地添加剤の開発を行うことを目指しています その他の研究テーマ ワックスエステル パラミロン サルファーインデックス