ミドリムシでの高効率ゲノム編集に成功
理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターバイオ生産情報研究チームの野村俊尚研究員、持田恵一チームリーダー、科技ハブ産連本部バトンゾーン研究推進プログラム微細藻類生産制御技術研究チームの鈴木健吾チームリーダー(株式会社ユーグレナ執行役員研究開発担当/先端技術研究部長)らの研究チームは、ミドリムシの産業利用種Euglena gracilisを対象とした高効率のゲノム編集方法の確立に初めて成功しました。本研究成果は、ミドリムシの基礎研究の推進や、有用株の育種に大きく貢献すると期待できます。
ミドリムシのゲノム編集の研究背景
単細胞の光合成鞭毛虫であるEuglena gracilisは食品や化粧品としての機能の検証されたβグルカンの結晶体であるパラミロンや嫌気条件下でパラミロンから生産されるワックスエステルを生成するなど、産業利用に有望な微細藻類です(SUzuki et al, 2017)。
パラミロンは微細藻類ユーグレナとその近縁種のみが作るとされる結晶性β−1,3グルカンで、β−1,3グルカンはキノコ等が多く含む多糖ですが 、免疫賦活作用を持つことから有用な成分として広く認識されています(Nakashima et al, 2018) 。さらに、抗肥満や高血糖の抑制などの効果 (Shimada et al, 2016; Nakashima et al, 2018) があり高機能食品素材として有用です。

さらに、Euglena gracilisは嫌気条件下でパラミロンを分解し、ワックスエステルと呼ばれるバイオ燃料の原料となる物質を生成します。ワックスエステルを構成するミリスチン酸ミリスチルは他の微細藻類由来のパルミチン酸やステアリン酸などの中鎖脂肪酸由来のバイオ燃料 (Hu et al, 2008) と比較して低い凝固点を持ち(Klopfenstein et al, 1985)、そのまま燃料の原料として用いることが可能で、ワックスエステルは接触分解時に難燃性の芳香族の代わりに大量のパラフィンとオレフィンを生成することがわかっています (Shimada et al, 2018) 。
ユーグレナ社が開発を進めてきたバイオディーゼル燃料は、2018年12月より次世代バイオディーゼル燃料を含有した燃料、また、2019年夏から実証プラントで製造された次世代バイオディーゼル燃料を用いたシャトルバスの実証走行に用いられています。

パラミロンやワックスエステル以外にも他の微細藻類にない産業利用可能な性質をもつEuglena gracilis ですが、Euglena gracilisの産業利用のさらなる拡大のためには、効果的な遺伝子改変技術が必要であり、特に法的成約の少ない標的遺伝子の突然変異誘発は長年の課題でした。
本研究の成果
本研究では、高効率で導入遺伝子のない突然変異誘発の手法を開発しました。微細藻類で高効率な突然変異誘発が成功した例は少なく、Chlamydomonas reinhardtiiを用いたssODN(single‐stranded oligodeoxynucleotide)を用いた突然変異(~10%)(Jeon, 2017)よりも高効率で最大90.01%の突然変異効率でした。
本研究ではエレクトロポレーション法によってRNP複合体をEuglena gracilisに導入しましたが、Euglena gracilisは他の微細藻類の持つ細胞壁や、RNPの浸透を妨げる細胞膜構造を持たないため、高効率な突然変異効率が達成できたと考察しています。

本研究の貢献
CRISPRベースの技術開発によって、Euglena gracilisは様々なテクノロジーに応用可能な生物資源になることが予想されます。本研究によってExcavataスーパーグループの他のユーグレナ属の遺伝子の機能解析へのCRISPRシステムへの応用が可能となります。さらに、SDGsを更に促進するために重要な特性を持ったEuglena gracilisの作製など、生物資源の有効活用に大きく貢献すると考えられます。