SDGsとバイオ市場の成長可能性
SDGとは、Sustainable Development
Goals(持続可能な開発目標)の略で、2015年9月にニューヨークの国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標で、貧困、飢餓、気候変動等17項目に関連する169のターゲットからなります。
このSDGsの目標の中にはバイオテクノロジー分野の貢献できる課題が多数あります。日本バイオ産業人会議(JABEX)が2016年に公表した2030年を想定した「進化を続けるバイオ産業の社会貢献ビジョン」においては、1,日本のバイオ関連技術が欧米諸国に遅れを取っていること、2,SDGs実現のための諸課題に対してバイオ分野が貢献しうること、3,各国がバイオエコノミー戦略を策定しバイオ産業の進行と社会課題解決の両立を目指していることを示し、日本においてもその必要性があると発表しました。
バイオエコノミーという概念はSDGsの以前から国際的に提唱されている概念であり、OECDは2030年のバイオ市場はGDPの2.7%に成長しうち4割を工業分野が占めると予想しておりバイオ経済を加速させる新たな風潮が形成されています。
バイオテクノロジー分野の技術革新とスマートインダストリー
経済産業省の産業構造審議会によると、今後バイオテクノロジー分野で進む大きな技術革新として、1,次世代シーケンサーを利用した大規模なゲノム解析、2,IT x
AI(生物情報学)技術、3,ゲノム編集技術の三点が挙げられており、これらの技術によって高度に機能がデザインされ機能の発現が制御された生物細胞が今後のバイオテクノロジーで重要な役割を果たすと考えられています。この高度に発現が制御された生物細胞を「スマートセル」とよび、スマートセルを利用した産業軍を「スマートセルインダストリー」と呼びます。
スマートセルインダストリーと国内バイオマス資源の開発促進
国内バイオマス資源として特に有望視されているのが微細藻類であり、スマートインダストリーによってSDGsを実現するためには、バイオテクノロジーを活用した国内のバイオマス生産に適した生物種の育種や改変が必要です。当チームでは世界で初めて高効率なユーグレナのゲノム編集技術を開発しています。他にも、遺伝子機能の解析などの基礎研究の推進や、有用物質生産能を向上させた株の分子育種によって、目的に応じたユーグレナの作出が可能になります。これらを応用することでユーグレナ由来のバイオ燃料の運用が実現可能になると考えています。これはSDGsの目標の一つである「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」という目標に貢献する非常に重要なテーマです。
バイオ燃料の課題
SDGsのターゲットの一つである「気候変動に具体的な対策を」を達成するためには、石油資源から代替燃料への切り替えが重要です。現在、世界の人口は2050年には97億人超になるなど急激な人口の増加が予想されており天然の石油は人口増加による消費率を満たすには不十分であると言われています。さらに化石燃料の使用は温室効果ガスの排出とその結果としての地球温暖化をもたらすため、クリーンなエネルギーの開発が現在重要な課題となっており、様々な生物資源を燃料として活用した取り組みが行われています。
実際に、米国ではバイオ燃料に関する政策として2012年にバイオエタノールを15%含有しているE15という燃料がEPAにより承認を受け 、現在公道で走っている90%の車両がE15による走行を承認されています。また、2020年からエタノールの含有量を更に引き上げるほか、高エタノール混合ガソリンの販売を巡る規制撤廃を目指しています。米国のバイオエタノールはほとんどがトウモロコシから作られていますが、トウモロコシは食用や飼料としての既存の用途と競合する可能性があります。また、サトウキビに関しても同様の問題が懸念されているため、大体のバイオ燃料が必要とされています。またEUでは温暖化対策としてバイオ燃料の使用を促進するため、2009年に「再生可能エネルギー指令(RED)」により輸送用燃料に混合するバイオ燃料の割合を 2020年までに10%以上とする義務的目標を設定しました。しかし、2015年にはバイオ燃料用作物の栽培のために耕地面積の拡大によって温暖化が進行する可能性があることを考慮し、廃油の再利用などを含む非食用作物由来のバイオ燃料の使用を推進するためにREDⅡとして改正が行われています。バイオ燃料の普及のためには、食用などの他用途との競合や生産に伴う温暖化の進行の回避が必要です。
Euglena gracilisを用いたバイオ燃料の実現
ユーグレナは光合成などによって得られたグルコースを主に「パラミロン」とよばれる β-1,3- グルカンの結晶として細胞内に蓄積します。その細胞内含有量は培養条件や生育の期間により異なるが、最大で乾燥重量の50%以上になることもあります。
ユーグレナが嫌気状態におかれるとパラミロンがグルコースまで分解され最終的に脂肪酸と脂肪アルコールがエステル結合したワックスエステルに変換されます(ワックスエステル発酵)。一般的な藻類を含む植物油脂に多く含まれる成分は、主骨格の炭素が 16 以上となる軽油、あるいは更に重質な石油留分に相当する炭素骨格よりなります。一方で、ユーグレナが合成するワックスエステルは、鎖長が C14 のミリスチン酸と C14 のミリスチルアルコールからなるミリスチルミリステートを主成分としています。より短鎖である C14 の脂質は融点が低くドロップイン燃料としての利用が有望です。
ユーグレナワックスエステル由来のバイオディーゼルの実用化
株式会社ユーグレナでは、ユーグレナ・ワックスエステル由来のFAME(脂肪酸メチルエステル:fatty acid methyl ester)を用いた従来型バイオディーゼル燃料(DeuSEL®)を、神奈川県藤沢市にあるいすゞ自動車株式会社藤沢工場と湘南台駅を往復する社員・来客用シャトルバス用に供給しています。この試験的な利用は2年間以上続いています。
さらに、横浜市鶴見区の京浜臨海部において日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを2018年10月31日に竣工しました。実証プラントで製造する国産バイオジェット燃料での有償飛行を2020年までに実現するほか、2019年夏からは実証プラントで製造した次世代バイオディーゼル燃料の供給を開始します。