パラミロンについて

パラミロンの産業利用

パラミロンは微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)とその近縁種のみが作るとされる結晶性β−1,3グルカンです。β−1,3グルカンはキノコ等が多く含む多糖ですが、免疫賦活作用を持つことから有用な成分として広く認識されています。ユーグレナが持つパラミロンも、β−1,3グルカンであることから同様の作用があるとされ、古くから研究されています。

2005年に株式会社ユーグレナにより、大量培養したユーグレナを食品素材として供給することで、ユーグレナに含まれる形でパラミロンを容易に摂取できるようになりました。また、ユーグレナが産業利用されることで精製したパラミロン自体の機能性研究が促進され、パラミロン自体の需要が生まれることにもつながりました。パラミロンにはヘルスケア分野への高い機能性が報告され始めており、機能性研究を通した需要の産出と、大量生産による供給が目指されています。

特に、比較的付加価値の高い医療や健康価値を打ち出すため機能性食品としての可能性について検証され、免疫調整能などの可能性が示されています。特に免疫調整機能に関する研究ではインフルエンザの症状緩和効果(文献1)やアトピー性皮膚炎の緩和効果(文献2)、リウマチの症状緩和(文献3)などが報告されパラミロンは機能性を保有する食品素材としての可能性が示されました。

パラミロン及びその高含有製品を、機能性食品を中心とした市場に投入することで、市場が新たに創出されています。例えば、パラミロンの機能性に着目した小売大手株式会社からユーグレナ入り商品の開発と販売が開始され、パラミロンの機能性、及びユーグレナの有用性を活用したヘルスケア商品の流通・小売への配架が進められています。

A:通常のユーグレナ,B:ゲノム編集によってパラミロンを合成できなくなったユーグレナ

精製したパラミロンの利用

抽出したパラミロンを産業的に活用するには、ユーグレナを培養し、そこからパラミロンを抽出分離する手順を踏みます。通常の大量培養で得られるユーグレナは乾燥重量で20%程度しかパラミロンを含まず、抽出精製するには残りの約80%が除去すべき不純物ということもあり、非常に効率が悪いものでした。パラミロンの含有率を高める培養方法が各社で開発されており、パラミロンの含有率を高めたユーグレナを安定的に培養・供給することが可能となり周辺の技術開発が進んでいます。精製したパラミロンはユーグレナ粉末全体を利用するのと同様の機能性効果があるだけでなく、精製したことで利新たに用できる用途も生じます。さらに、医療器具素材として傷の治療フィルムとしての創傷治療効果も明らかにされています。

ユーグレナは現在では藻体全体を乾燥させた粉末の形で提供され、健康補助食品を中心に市場において流通していますが、この食用の粉末を利用し、パラミロンの精製に用いる薬品を食品素材としての利用に差支えのないものとすることで、食品添加物グレードのパラミロンを得ることも可能になっています。パラミロン以外のβ−1,3グルカンは、精製がより困難であるため、素材の食材としての応用はされてきませんでしたが、この食品添加物グレードのパラミロンを作製できるようになったことで、応用可能性がさらに増えることとなります。

ユーグレナの機能性成分の中のパラミロンの位置づけ

ユーグレナを健康食品素材として扱うとき、パラミロンがその主要な効果成分であるとされています。また、パラミロン以外の部分でも、動物性・植物性双方の栄養成分が含まれていることが特徴となっています。一方で、パラミロン以外の成分に、ユーグレナ特異的な機能性効果があるのかは明らかになっていません。

当チームではユーグレナにおけるゲノム編集技術を世界に先駆けて完成させました(文献4)。その際に、ゲノム編集により改変する対象の遺伝子として、パラミロンの合成に関与すると報告されていた遺伝子(EgGSL2)をその対象の一つとしました。これにより得られた変異体は、パラミロンの蓄積ができない性質を示します(文献5)。従来は、ユーグレナを栽培すると必ずパラミロンが含まれてしまうので、パラミロン以外のユーグレナに含まれる有効成分を調べることは困難でしたが、この株を利用することで、ユーグレナのパラミロン以外の成分がどのような機能性効果を担っているのか、明らかにしていけると期待しています。

パラミロンの持つ免疫調整活性

パラミロンは強力な免疫調整活性を持つβグルカンの結晶体であることが知られています。パラミロンを認識するものとして、マクロファージや樹状細胞、好中球などの自然免疫を担う細胞に発現しているデクチン-1(文献6)やToll様受容体(文献7)、ミクログリアやマクロファージに発現してミエリンの食作用を媒介している補体受容体3やスカベンジャー受容体、ラクトシルセラミドやエリシター特異的に誘発する生物学的応答に関与する免疫細胞上の受容体(文献8)があります。他にも、パラミロンを用いた魚の養殖に用いられるアルテミアのストレス抵抗性の誘導(文献9)、ヒトリンパ球における自然免疫活性のためのパラミロンナノファイバー化(文献10)、マウスの肝障害に対する抗線維化効果(文献11)など、免疫調整機能を示唆する研究が知られています。