ワックスエステルについて

ワックスエステルとミドリムシ

微細藻類の一種であるミドリムシ(ユーグレナ)は、高濃度のCO2存在下でも光合成によって良好に生育する生物です。ユーグレナは細胞内に多糖類であるパラミロンを貯蔵していますが、ユーグレナを酸素不足の環境に晒すとこのパラミロンを分解してワックスエステルという油脂を細胞内に作ります(文献1)。ユーグレナ由来のワックスエステルはバイオディーゼル燃料になり、車両用燃料やジェット燃料などの輸送用の燃料としての利用に加えてろうそくや化粧品の原料として高い需要があります(文献2)。

ワックスエステル発酵

合成されるワックスエステルは、飽和脂肪酸と10〜18の鎖長のアルコールで構成されており、主な成分はミリスチン酸とミリスチルアルコールです(文献3)。ユーグレナはパラミロンからワックスエステルへの変換によってエネルギーであるATPを獲得します。これを「ワックスエステル発酵」と呼びます(文献3)。

ユーグレナ由来ディーゼルの実用化

ユーグレナは細胞内に脂肪酸あるいはワックスエステルを大量に貯蔵しますが、このうちワックスエステルはバイオディーゼルとして直接利用できます(文献4)。 さらに、より短鎖の脂肪酸は良い凝固特性と酸化安定性を持つため、ディーゼル及び灯油の工業生産では、長鎖脂肪酸より中鎖あるいは短鎖脂肪酸の利用が優先されます(文献5)。株式会社ユーグレナでは,ユーグレナ・ワックスエステル由来のFAME(脂肪酸メチルエステル:fatty acid methyl ester)を用いた従来型バイオディーゼル燃料(DeuSEL®)を、いすゞ自動車株式会社社員・来客用シャトルバス用に供給しており、試験的な2年間以上の実用化を実現しています。

ワックスエステル発酵と硫黄代謝

筑波大学で開発されたサルファーインデックスによって、ミドリムシのワックスエステル発酵における臭いの発生が、硫黄化合物に関係する副次的反応によることがわかりました。サルファーインデックスにより、硫黄化合物についてメタボローム解析を行い、油脂の生産によって細胞内のシステインやメチオニンなどの含硫アミノ酸が増え、グルタチオンや硫黄を含むタンパク質などの化合物が減少していることが明らかになりました。さらに、ミドリムシによる油脂産生の際に、グルタチオンの分解を促進させる分子的原因を解析し、油脂生産の際にDug1p、Dug2p、Dug3pからなる分解経路の強化によりグルタチオンの分解が促進していることが示唆されました(文献6)。これらの結果は、油脂生産における臭いの発生を抑制する技術の開発につながると期待されます