みんなのミドリムシはどう解析される?-②単離-

みなさんに採取し送っていただいたミドリムシ。微細藻類生産制御技術研究チームの研究室では、どう解析されるのでしょうか。

手順は大きく4つ。①送っていただいたサンプルを培養し、②セルソーターを用いて単離、③単離培養した各株のDNA配列を読み、④読んだDNA配列を比較解析します。ここでは、②セルソーターを用いた単離についてご紹介します。

ミドリムシの培養と単離
図1 培養と単離(文献1より改変)

厳しい培養条件で生き残ることができた「ミドリムシ候補」ですが、培地中で増えている細胞が単一のものとは限りません。そこで、増えてきた細胞集団はセルソーターという装置にかけて、細胞を見分けながら単離します(図1)。単離した細胞を再培養して増えてきたものを「株」と呼び、各株の形態観察や手順③以降の過程を行います。

ミドリムシをどうやって見分ける?

単一な細胞集団を一つひとつ分ける(単離する)だけであれば、細胞が一つの容器に一つずつ入るように希釈して分けることが可能です。ただ、みんミドPJのサンプルは、酸性培地での選択がかかっているとはいえ、様々な細胞や細菌が含まれたミックスな「ミドリムシ候補」です。私たちが欲しいのはミドリムシ。この中から、ミドリムシをどうやって「見分けて」単離するのでしょうか。

一つは、細胞の形や色、動きといった形態的特徴から見分ける方法。顕微鏡で観察しながら「これだ!」という細胞を見分け、キャピラリーという細い管を使って一つずつ分けけていきます。ただ、この方法で一気に多くの細胞を見分けて単離することはなかなか難しいです。

FACS
図2 セルソーティング

今回、単離に使用するセルソーターは、1秒あたり最速で7万個の液滴(細胞が入った液体の粒)を分けることが出来きます。どうやってそんなに速く細胞を見分けて単離しているのでしょうか。答えは「光」と「荷電」。装置内では、細胞一つひとつを一定方向に流して光を照射します。細胞に当たった光を検出し、解析することで細胞の特徴を見分けています(フローサイトメトリー)。そして、見分けた結果からリアルタイムでほしい細胞を一つずつ荷電に応じて分けています(セルソーティング)(図2)。

光で細胞を見分けるフローサイトメトリーでは、細胞を通過した光から細胞の大きさや形、反射した光から細胞内の内部構造の複雑さ(顆粒が多いかなど)がわかります。また、細胞内の目的タンパク質や脂質を蛍光標識することで、その細胞に目的の物質があるかを判断することもできます。私たちが標的とするミドリムシのE. gracilisは、細胞の大きさが50 μmほどで長細く、細胞内にパラミロン粒や葉緑体(自家蛍光を発します、文献1)を含み、油産生条件では標識可能な油脂を作ります。このようなミドリムシと判断するのに使えるパラメーターから細胞を見分けることが可能となります。

セルソーターを通る細胞は最終的に液滴に一つずつ入ります。この時に、「ミドリムシ」と判断された細胞の入った液滴は荷電されます。例えば、「+」に荷電された液滴は「-」の極板引かれて、他の液滴と分けられ回収される仕組みです。

効率的に目的の細胞を分ける技術は、ミドリムシに限らず医療や生物学の分野でも重要なツールとして開発が進められています。上記の方法の他に、細胞の形に応じて自動的に分ける方法として、微小流路を基盤の上に作ったマイクロ流体デバイスに細胞を流す方法もあります(文献2)。また、蛍光での標識なしで細胞にある物質を見分ける技術(文献3)や、ディープラーニング(深層学習)を用いて細胞の画像を瞬時に判断し分ける技術(文献4)も報告されています。


単離・再培養により増えてきた各株は、顕微鏡で形態観察を行います(これまで樹立した株の形態はみんミドPJ結果報告を参照)。実際に観察してみると形態が各株で異なっているものもあります。次の手順③では、各株のDNA配列を読んでいきます。